⑪企業型確定拠出年金(企業型DC)「労働保険料の控除」について

社会保険

前回「企業型DC」では一部、奨励金等で会社が従業員のために掛金を掛ければ、その分は従業員に対する給与から控除することになります。結果控除した分は労働保険料(労災、雇用保険)を掛けないことになります。とお伝えしました。今回はこちらについてお話します。

「アイザワ証券」のウェブサイトに「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の以下の説明があります。

01 | 加入:事業主もしくは加入者が掛金を拠出します

企業型確定拠出年金の掛金の限度額は月額55,000円です。
企業型確定拠出年金の掛金拠出の負担者により、主として以下に分けられます。

  • (1)前払退職金制度として事業主が掛金を拠出する場合
  • (2)福利厚生制度(加入者自身の老後の資産形成を支援するための制度)として、加入者が給与の一部を掛金(非課税扱い)として拠出する場合(加入選択型)(※)
  • (3)(1)と(2)を組み合わせて掛金を拠出する場合

制度導入を検討する事業主がどの形態にするかを検討し決定することが必要となります。
※労使合意による給与規定の修正が必要です

上記説明の(2)を御覧ください。

企業=会社が掛金を従業員のために拠出=負担する部分は「加入者(=従業員)自身の老後の資産形成を支援するもの」です。・・・

次に下記の表を御覧ください。厚生労働省公表の「労働保険対象賃金の範囲」です。

労働の対象となる賃金(厚生労働省)

 

表の右側(賃金としないもの)欄の上から8欄目に「奨励金」に関することが書かれています。

財産形成貯蓄等のため事業主が負担する奨励金等→勤労者財産形成促進法に基づく勤労者の財産形成貯蓄を援助するために事業主が一定の率又は額の奨励金を支払う場合(持株奨励金など)

ここに「、、、勤労者(=従業員)の財産形成貯蓄を援助するために事業主=会社が、、、奨励金を支払う、、、」とあります。・・・

で企業型確定拠出年金の掛け金は従業員自身の老後の資産形成を支援するものであり、従業員の財産形成貯蓄を援助するために会社(=企業)が支払う奨励金は賃金とはしないということは、企業型確定拠出年金の掛け金は賃金ではないので、その掛金分は労働」保険において賃金ではない。ということになります。

注意:これは労働保険です。下記を参照してください。労働保険も社会保険です!

広義 社会保険
狭義 社会保険 労働保険
具体例 健康保険
厚生年金保険
国民健康保険
国民年金
労災保険
雇用保険

しかし、お話している奨励金として保険料の基礎に参入しないのは、あくまでも労災保険と雇用保険の保険料です。毎年、年度更新と言って昨年度の確定保険料と今年度の概算保険料の申告と支払いを6月1日から7月15日までに行っているものですね。

では、もう一方の社会保険である、特に会社が関係する「健康保険と厚生年金保険」に関してはどうでしょうか。同様な考え方で保険料の基礎として算入しなくてもよいのでしょうか。

答えは、、、、グレーです。

白でも黒でもない。。。

ま、税金と同じで、算入しない会社が増えてくれば、規制を厳しくして明確に賃金に算入せよとなるでしょうし、目立たないうちは、、、ですかね。。。

社会保険(健康保険、厚生年金保険)料計算の基礎に算入するかどうかはこれ1点です。

「その支払われるお金が労働の対象であるかどうか」です。労働の対象として受けるものであれば計算の基礎に入れなさい(報酬・賞与に含まれる)ということです。

これは社会保険労務士である筆者自身の個人的見解ですが、企業型確定拠出年金の掛け金は「報酬・賞与」に含まれないと考えます。つまり健康保険・厚生年金保険料の計算の基礎としなくてもよいと思います。

その理由ですが、下記を御覧ください。日本年金機構公表の「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」です。最初の「○報酬・賞与の範囲について」の部分がポイントです。

社保事例集

問1の(答)のところに「、、報酬及び賞与は、労働の対象として、、、受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのものを包含するものである、、」とあります。

次に具体的事例の②のところで、労働の対象として受けるものではないものは、「報酬等」に該当しない。【例】、、、、退職手当、、、とあります。

さらにそのすぐ下の(注)に「退職手当は、、、、、前払いされる場合、被保険者の通常の生計に充てられる計上収入と扱うことが妥当であり、「報酬等」に該当する。」と書かれています。

では、企業型確定拠出年金の掛け金はどうでしょうか?

その掛金は被保険者(従業員)の通常の生計に充てられますか?

無理ですね。

なぜなら、iDeCoもそうですが、年金なので退職手当ではないですが、用途としては同じで、企業型確定拠出年金は原則老後の生活のために給付されるものであって、途中で解約して通常の生計に利用するために使うことはできないからです。

厚生労働省のウェブサイトから「確定拠出年金制度の概要」を見てみましょう。2制度の概要の(5)給付のところにこうあります。

受給要件等 原則60歳に到達した場合に受給することができる
(60歳時点で確定拠出年金の通算加入者等期間が10年に満たない場合は、支給開始年齢が段階的に先延ばしになる)
・8年以上10年未満→61歳
・6年以上8年未満→62歳
・4年以上6年未満→63歳
・2年以上4年未満→64歳
・1月以上2年未満→65歳
60歳以降に初めて確定拠出年金に加入する場合は、加入した日から5年経過した日以降に受給可能。

原則60歳に到達した場合に受給することが受給要件です。ここからも企業型確定拠出年金は通常の生計に利用するものではない、退職手当と同様のものであるといえないでしょうか?

労働保険の年度更新、社会保険の定時決定等に係る報酬・賞与等のことも含め、具体的に企業型確定拠出年金の相談をされたい方は下記お問合せお待ちしております。

     

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